アパート経営コラム

平成16年度税制改正の要点(その1) Vol.1
 アパートを取得する場合に、そのアパート(建物)を誰の名義にするかは、税務上重要な問題をはらんでいます。取得財産の名義の問題は、アパートなど建物のみでなく、土地、有価証券、預貯金など資産形成に大きな役割を占める財産すべてに当てはまる問題です。
 この場合の「取得」という用語の内容が問題で、個人に限っていえば、新築(建築)、購入、交換、贈与、相続、財産分与などの態様が考えられます。このようなさまざまな態様を原因としてアパートを取得する場合に、取得する側の名義をどのようにすれば税務上問題ないか、について解説します。

鴛海量良氏
(公認会計士・税理士)
3 相続で取得する
 まず、アパート取得のもっとも簡単な態様といえる「相続による取得」の場合について考えてみましょう。  いうまでもなく相続とは、人の死亡を原因として、被相続人(死亡した人)の財産(権利・義務)が相続人に必然的に承継されることをいいます。したがって、相続を原因として取得したアパートの名義は、取得した相続人の名義になるのは当たり前ですが、相続人が二人以上の場合は、誰がそのアパートを相続するのかを決めるのは簡単ではありません。
 遺言書がある場合は、遺言書で指定された相続人が取得することになり、アパートの名義も当然その相続人になります。遺言があっても、指定された相続人が受贈を拒否すれば,相続人間の遺産分割協議によることもできます。
 遺言書がなく相続人が二人以上の場合は、相続人間の協議によりアパートを取得する人を決めることになります。このように遺産の分割を協議して決めることを「遺産分割協議」といいます。  二人以上の相続人がアパートを取得することは、一人で相続する場合の単独所有(単有)に対して、いわゆる共同所有(共有)と呼ばれます。
 相続人が一人しかいないときは、もちろんその相続人の名義になるのは当然です。  さらに相続には、プラスの財産(積極財産)だけでなく、借金のようなマイナスの財産(消極財産)もあります。現実には少ない例とはいえ、後者が前者を上回ることもあり,その場合には相続人は相続を放棄するか(相続放棄)、あるいは積極財産の限度においてのみ借金に対する責任を負うことを選択するという相続の仕方(限定承認)もあります。
 このような例外を除くと、相続によるアパートの取得は、いずれも時間がかかる遺言の執行や分割協議を経てはじめて、取得した相続人そのものの名義となります。そういう意味で、話がまとまりさえすれば簡単だと申し上げた訳です。
 また、遺産分割協議を終え、相続登記をしたあとで、協議をやり直して名義を変える場合は、新たに「贈与税」課税の問題が生じますのでご注意ください。
 なお、相続によりアパートを取得した場合は、アパートの取得費(相続時の相続税評価額*1ではないので要注意)も所有期間も引き継ぐことを覚えておいてください。
 計算例を用いて説明すれば次のようになります。
  〈計算例〉
 
  (1)被相続人がアパートを建築した時点 平成6年7月1日
  (2)建築費 3000万円
  (3)減価償却 耐用年数27年 定率法
  (4)相続開始日(死亡日) 平成16年6月30日
  (5)平成16年6月30日現在の未償却残高(計算略) 1270万円
イ. 相続開始日現在のアパート(貸家)の相続税評価額は
(6)1350万円×(1−0.3)=945万円
 
ロ. 相続人のアパートの取得費
(5)1270万円
 
ハ. 相続により取得したアパートの減価償却方法
平成10年4月1日以後に取得した建物であるから、定額法しか採用できない。
  (注)平成10年4月1日以後取得の建物の減価償却方法は、取得の原因が新築、購入、相続、贈与を問わずすべて定額法によることとされた。
 
ニ. 相続により取得したアパートの耐用年数
この場合の耐用年数は中古資産の耐用年数を用いることになる。
 
a. 残存耐用年数を見積もる方法
法定耐用年数から経過年数を控除した数(この場合は17年)を採用しても税務署が認めているケースもあるが、一般には次のb.によって算出している。
 
b. 残存耐用年数を早積もることが困難な場合の簡便法
  法定耐用年数の全部を経過したもの
  法定耐用年数×0.2=中古資産の耐用年数
  法定耐用年数の一部を経過したもの
  法定耐用年数−経過年数×0.8=中古資産の耐用年数
  27年−10年×0.8=19年
  (注)「残存耐用年数を見積もることが困難な場合」とは、その見積もりのために必要な資料がないため技術者等が積極的に特別の調査をしなければならない場合や、耐用年数の見積もりに多額の費用を要すると認められる場合をいう。
*1.相続または贈与の場合に用いられる建物の評価は、固定資産税評価額です。一般に、建築費の半分くらいです。さらに、アパートや貸しビルなどの賃貸建物は、借家権30%相当分を控除します。例えば、建築費3000万円であれば、固定資産税評価額は約1500万円、さらに借家権30%を控除するので1050万円となります。もっとも固定資産税評価額は経年減価しますので、経過年数が長くなればなるほど低下していきます。
2 贈与の場合
 贈与契約とは、当事者の一方(贈与者)が自己の財産を無償で相手方(受贈者)に与える意思を表示し、相手方がこれを受諾することによって成立する契約(民法549条)です。この民法の規定で重要なのは、贈与には相手方の承諾が要る、いいかえれば相手方の承諾を得ずに勝手に名前を使ってアパートを建てたり、預金したりする行為は贈与とはいえない点です。ただし税務署は、そのような事情は外部から判断不可能ですので、外から見得ることで、つまり、名義が変えられたという事実を捉えて贈与税を課税します。この場合に受贈者は、承諾なしに相手が勝手に自分の名義を使ったことを立証すれば課税を免れることができます。このことは是非覚えておいてください。
 さて、贈与によりアパートを取得したときは、当然ながら取得した人(受贈者)の名義になります。ただし、贈与税課税の問題が発生します。
 贈与税は毎年1年間に贈与により取得した財産の合計額を算出して計算します。
   贈与財産−基礎控除110万円=課税贈与財産
 左記[1]の計算例で用いたアパートのみをその年に贈与したときの贈与税は次のとおりです。贈与税は下記の速算表を使って計算します。
1350万円×(1−0.3) =945万円
945万円−基礎控除110万円 =835万円
835万円×40%−125万円 =贈与税209万円
贈与税の速算表
基礎控除後の課税価格 税率 控除額(千円)
200万円以下 10% 一千円
300万円以下 15 100
400万円以下 20 250
600万円以下 30 650
10,000万円以下 40 1,250
10,000万円以上 50 2,250
(注)上表の「課税価格」は、基礎控除110万円のみならず2000万円の配偶者特別控除後も含む。
 上記の計算例では209万円の贈与税が課せられますが、この贈与税課税を避けるには、贈与を止めるか、あるいは、昨年創設された「相続時精算課税制度」を利用するか、のいずれかを選択するしかありません。もっともアパートを1回で贈与せずに、超過累進税率となっている贈与税の負担を軽減するために、2回もしくは3回、あるいは贈与税の基礎控除110万円の範囲に収まるように毎年持分贈与する方法もあります。
 例えば、計算例は省略しますが、3回に分けてアパートを贈与すれば、総額62.25万円の贈与税がかかります。贈与税の基礎控除の範囲内に収めるのであれば9回(110万円×9回=990万円>945万円)に分けて贈与することになります。
 相続時精算課税制度は2500万円(住宅取得資金1000万円上乗せの場合は3500万円)まで贈与税は課税しない、2500万円(住宅取得資金1000万円上乗せの場合は3500万円)を超過する部分は20%の贈与税を納め、相続時に相続財産に加えて相続税の対象とし、生前に納めた贈与税を精算するという制度です。
 この適用を受けるための要件は、65才以上の親から20才以上の子供への贈与(ただし、平成17年12月31日までに適用される住宅取得資金贈与1000万円上乗せの場合は親の年令制限なし)に限られます。また、相続税の計算時に合算される生前の贈与財産の評価額は、贈与時の時価とされています。
 なお、贈与により取得したアパートの取得費と所有期間については、贈与者の所有期間を引き継ぐことは相続の場合とまったく同じです。減価償却の方法や計算も相続とまったく同じです。
 今回は、アパート取得と名義という標題で解説をしましたが、書き進めてみると、いろんな税務上の問題がからんでいることに気がつきました。次回は、「新築、購入、交換」によるアパート取得について解説します。